- 2016-2-25
- コラム
記事提供元:心と体のストレスケアマガジンWASA-V
インタビューの節々に芯の強さや潔さが表れる、<竹を割ったよう>な清々しさの漂う気持ちのいい女性。しかしその姿は、厳寒の雪の中でも凛とした美しさをたたえる、寒椿のようなあでやかさで…。昨年までフリースタイルモーグルの現役選手でいてトレーナー、また一児の母であり、妻であり、そして起業家でもあるスーパーウーマン・新谷奈津美さんに、15年間の現役人生や今後の活動や展望についてのお話を伺った。
「自分流」を極める!
15歳から始めたモーグル競技ではデビュー2戦目から入賞を果たし、その後は順調に成績を上げ国体でチーム優勝。個人でも全日本ランク5位という好成績を収めた人。かたや、ママさんアスリートでありながら、学生として専門学校に通い、難関の「日本体育協会アスレティックトレーナー」の資格を獲得。さらには前述のごとく「美女アスリート」である。
と、ここまで書けば、天が気前よく二物も三物も与えた、順風満帆な人生を送る成功者としか見えないだろう。
ところが、この人の生きざまは実に壮絶なのです。
1998年の長野オリンピックでモーグル競技を知り、さらには金メダルに輝いた里谷多英選手の活躍ぶりにワクワクし、「目指すべきものはこれだ!」と決意してモーグルを始める。しかし「始めた」といっても、スクールに通ったり、コーチについて指導を受けたりしたわけではない。むしろ、周囲の余計な声はできるかぎりシャットアウトしたかったという。あくまでも自分で体験し、そこからつかみ取った自身の感覚で戦略を立て、調整を重ねて本番に挑む。これが、新谷流。もちろん、プロコーチの指導を仰がないトップアスリートなど、実にまれな存在であるが、失敗も含むすべての経験から学び、自分で考えて行動することを重視するタイプに多い。陸上の為末大氏やスピードスケートの清水宏保氏、ゴルフの松山英樹選手などが有名である。
けれども新谷さんはモーグルに限らず、勉強でもゴルフでもそう。マニュアルを読む、誰かに基本を教わる、ではなく、まず「やってみる」。動きを全身で体感し、できた・できなかった理由を考え、戦略を立て、何度も挑戦して改良していく。何度も失敗し、計画的に克服。そんな地道な積み重ねを簡単に「努力」などと言うなかれ。彼女の揺るぎない「信念」あってこその<自分流>なのである。
あらゆる経験を積んだ熟年層ならともかく、彼女は幼少期からずっとこのスタイルを通してきたというから驚く。彼女は「とんでもないわがままですよね」と笑うが、彼女のスタイルは決して自分を中心に世界を回そうとする<自己チュー>ではない。自分を信じるために「信じられる根拠」を自身で徹底的に突き詰めるのだ。自分を見つめ、気付いた不足点を補い、高める。この繰り返しが彼女をどんどん強くしていき、実際に成果となって表れた。
しかしその<自分流>が、時としてあだになることも。「イップス」である。イップスとは、意識の有無を問わず、プレッシャーや極度の緊張により、筋肉の硬化や神経細胞、脳などに影響をきたし、思い通りのパフォーマンスができなくなる症状のこと。極限で戦うアスリートや、繊細な指の動きが要求される楽器演奏者などに多く見られる。
彼女はそのイップスに、自身の<絶頂期>にはまったのだという。一般的な不調期を指す「スランプ」と違い、普段当たり前にできていることさえ突如まったくできなくなるという、手に負えない運動障害。彼女はそれに引退の年までずっと悩まされることになる。
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