- 2016-3-1
- コラム
記事提供元:心と体のストレスケアマガジンWASA-V
全日本空手道連盟公認三段。4歳で空手を始め、小・中学生時代に全国大会を制覇。一時期道場を離れ、結婚。出産後に5年ぶりにママ空手家として競技復帰し、最初に出た全日本実業団空手道選手権大会で3位。東日本実業団空手道選手権大会では準優勝した。そんなプロフィールを見れば、誰しもが「眼光鋭く、鍛え抜かれた体は鋼のような筋肉で覆われ‥」という姿を想像しないだろうか。
ところが、取材の席に現れたのは、色でふんわりとしたマシュマロみたいな女性。声も実にかわいらしく、この人が空手家であるなどとは誰も気づかないだろう人。いささかギャップ萌えに襲われつつ(笑)、彼女のライフスタイルに迫った。
厳しさとやさしさのバランス~問われる子どもの情操教育~
横浜東松涛館空手道場。父が開くその道場に入門したのが4歳のとき。ただ当たり前といえば当たり前の流れで空手道に足を踏み入れた。父は「自分からやりたいといった」と言い張るが、本人は記憶にないと笑う。ただ、当時は競技会に幼児部門の設定がなく、まだ園児ながら小学生部門でエントリーした初参加の大会で2回戦負けし、大泣きした記憶は鮮明なのだとか。その姿に、父は「この子は強くなる」と確信したらしい。実際、自身も認める負けず嫌いな性格と、厳しい稽古で磨かれた持ち前の運動神経や瞬発力でめきめきと上達。全国大会でも優勝候補の常連となった。
もちろん、日々の稽古に嫌気がさしたことはある。こと空手に関しては鬼のような顔を見せる父。試合に負ければ容赦なく叱り、より厳しく指導する。そんな<古き良きド根性論>のもと鍛錬を積んだ尾形さんは、決してその指導法を全面的に肯定はしないが、苦しさや我慢という経験は今の自分を形成する大事な礎になっているという。道場の案内にも「単に強さを身につけるのではなく、人に優しく、自分に厳しく、礼儀正しい魅力ある人間形成を目指します」との言葉があるように、稽古や競技を通して「礼」を学び、己を知り、鍛え、「人を守る力」という本当の強さを身に着ける。
昨今の風潮では、子どもがケガをする可能性のあるものは徹底的に排除し、勝ち負けの設定もできるかぎり払しょくする傾向がみられる。組み体操論争などは記憶に新しい。しかし、守られた環境にばかり置かれていると、いざというとき何の対処もできない。負けたことがなければ「次こそ勝とう」という向上心は生まれず、稽古に耐えうる強い精神も築けなければ努力の後に勝利する喜びも知りえない。幼き頃から心身を鍛え、厳しさとともに人に対するやさしさや礼節を学ぶことは、どんな時代であろうとも必要なプロセスなのではないだろうか。実際道場では、安全面には細心の注意を払いながらも、一人ひとりの体力や年齢、そのときの状態に合わせて厳しく指導を行う。そして子どもたちは、先生はもちろん周囲の先輩や後輩の技や振る舞いを見て学び、自身がどう動くべきかを自然と導き出していくのだそうだ。もちろん彼女もそうして大きくなり、心身ともにしなやかに、強くなっていった。
しかし、そんな柔と剛を持ち合わせた彼女にも、どうしても「勝てない存在」があったという。
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